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ピンクぬめりの真実
水回りの掃除をさぼっていると、排水溝の周りなどにピンク色の汚れが現れます。
微生物の観察は、電子顕微鏡が最も得意とするところです。電子顕微鏡を使って、ピンクぬめりが何でできているかを見てみましょう。
お風呂の床に発生したピンクぬめりを見てみよう
光学顕微鏡切片画像(トルイジンブルー染色)※この写真は、電顕観察用に試料作製したピンクぬめりを厚さ1.5マイクロメートルの厚さに切片化し、青色の染色液(トルイジンブルー)で染色した画像です。
走査型電子顕微鏡(SEM)で見てみよう
ピンクぬめりを採取してきたものを、SEMで観察した写真です。 矢印で示したように、細長い棒状の微生物がたくさんいる様子が分かります。 微生物はさらに大きなゴミやほこりのようなものに付着しているようです。
SEMとTEMの違いについてはこちら
透過型電子顕微鏡(TEM)でも見てみよう!
風呂場のピンクぬめりをTEMで観察した写真です。TEMでは試料を切片化して透過像を観察することで、試料の内部構造を見ることができます。この写真ではピンクぬめりの中の微生物の内部構造が観察できることに加え、微生物以外の物質も、その断面構造からヒトの皮膚の角質などであることが分かります。 風呂場ならではのゴミが微生物の群集と一緒に固まって、ピンクぬめりを形成していることが分かります。
の部分をさらにZOOM IN!!
風呂場のピンクぬめり
微生物の一つをさらに拡大して見ると、細胞内部に膜で囲まれた核などの細胞内小器官をもたないことなどから、微生物は細菌であることが分かります。細菌の細胞内に見える黒いツブツブはリボソームで、タンパク質の合成を行っています。
ちなみに酵母って?
上の二枚の写真は、酵母をSEMとTEMそれぞれで観察した写真です。
SEMでは、酵母がなめらかな球形をしている様子が観察できます。TEMでは、酵母の細胞内部が観察できます。酵母などの「真菌」は、分厚い細胞壁を持ち、細胞内には核やミトコンドリア、液胞などの膜で囲まれた構造を持っています。酵母は通常、細菌より明らかに大きく、光学顕微鏡でも見分けることができます。
今回は風呂場だけでなく、異なる3か所からピンクぬめりを集めてみました
それでは、風呂場以外の残りの2か所からも同じようにピンクぬめりを集め、TEMで見てみましょう。
ベランダの室外機の排水周辺を見てみよう
ベランダでは、エアコンから流れ出る排水によって常に水分が残っている場所に沿って、ピンクぬめりが発生していました
ベランダに発生したピンクぬめりを観察してみると、やはり細菌しか見つかりませんでした。 ベランダは外気にさらされ、ゴミや砂埃などとともに室内よりはるかに様々な微生物がやってくると考えられますが、ここにも酵母の仲間は見られませんでした。
次は、洗面台を見てみよう
洗面台では、排水溝のふちの部分に多くピンクぬめりが発生します。ベランダの例と同じく、水分が長く残りやすい場所ほどピンクぬめりが多く発生するようです。
洗面台のピンクぬめり
洗面台でも、他の場所と同じように細菌だけが観察されました。今回観察した限り、ピンクぬめりの中に酵母はいませんでした。
※ 私たちの生活の身近に存在する微生物の中に、赤色の色素を持つ真菌類が存在することも報告されています。そのため、真菌などの他の微生物に由来するピンク色の汚れが存在する可能性はゼロではありません。しかし今回の観察結果は、一般的なピンクぬめりの原因は細菌であることを示しています。
<発生場所別に細菌を比較してみよう
細菌の内部に見られる白く抜けた空間の様な部分(矢印)は、細菌が自ら作り出した物質をため込んでいる貯蔵庫のような構造と思われます。白く抜けて見える理由は、おそらく中身が脂質のような物質であったため、試料作製に使用した有機溶媒に溶けてなくなってしまったと考えられます。
ベランダの細菌
ベランダの細菌は、風呂場の細菌と比べて白く見える構造の数が多いようです。
洗面台の細菌
洗面台の細菌は白く見える構造の一つ一つが大きいという特徴が見て取れます。これらの特徴は、それぞれの細菌の生息場所の栄養状態などにも左右される可能性がありますが、細菌の種類ごとに異なる特徴をもっていることも考えられます。
倍率をあげて、細胞壁をみてみよう
風呂場の細菌の細胞壁の拡大像
風呂場の細菌の細胞壁を拡大して観察しています。 細胞壁の構造は、2層に分かれた典型的な「グラム陰性菌」の形態を示しています。
さらにベランダと洗面台も見てみよう
ベランダの細菌では、ペプチドグリカン層が恐らく非常に薄く、写真ではほとんど確認できません。
洗面台の細菌の細胞壁の拡大像
洗面台の細菌では、外膜が他と比べてやや見づらいようですが、 ペプチドグリカン層は確認できます。 3か所の細菌の細胞壁の構造はどれもグラム陰性菌のようではありますが、それぞれ細胞壁の見え方や、厚さなどがずいぶん異なっているようでした。 このような違いを生み出す原因は定かではありませんが、細胞壁の形態が異なるということは、やはりそれぞれが別種である可能性を示しています。 それだけではなく、一ヶ所のピンクぬめりの中にも、複数種の細菌がいてもおかしくありません。
電子顕微鏡は、通常の顕微鏡ですら見えないほどの小さなものも観察できます。今回、ピンクぬめりが細菌の集まりであることが分かっただけでなく、その細菌がどのような特徴を持っているかまで詳細に観察することができました。百聞は一見に如かず、という言葉のとおり、電子顕微鏡で見ると分かってしまう意外な事実もまだまだたくさんあるのではないでしょうか。
2017.9.27公開
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